働く上で感情は切り離せない

仕事中、あなたはどのような感情を持ちますか?

上司に叱責された時、お客さまや取引先からクレームを受けた時、社内で良い評価を貰った時など、それぞれの場面でどのような感情が生まれるかは、人によって異なります。しかし、全く何も感じずに働いている人はいないのではないでしょうか?

共通して言えるのは、働く上で(もっと大きく言うと、生きる上で)感情は切り離せないものだということです。

感情労働がもたらすものとは

感情労働では、その場その時に自分が何を感じるかだけでなく、自分の感情をどう使うかによって、仕事への態度やモチベーション、自身のメンタルヘルスに大きく影響すると言われています。

本来、感情は、意図的に作り出すものではなく自然に生じるものです。ところが、感情労働では、喜びや楽しみといったポジティブな感情も、怒りや悲しみといったネガティブな感情も、感じたままを自由に表現することが許されません。

そのため、組織の一員として、または、その仕事をする上での感情規則に従って、出すべき感情や抑えるべき感情をコントロールすることが必要になります。そして、それはサービスの質や顧客満足に繋がる重要な要素となります。

感情労働からネガティブ/ポジティブな影響を受ける人

人と接することへの苦手意識をもっていたり、自分の感情を仕事場面でうまくコントロールできなかったり、組織の求める感情規則に従えない気持ちがあると、感情労働を行うことは簡単ではありません。どれだけ表面的に感情を取り繕おうとしても、本来の感情との間にギャップをもちながら働くことは難しいからです。

一方で、人の役に立つことや人に喜んでもらうこと、困った人を助けることなど、人と関わることに働きがいを感じる人の場合、感情労働は魅力的な働き方でもあります。人との感情的な繋がりを感じられ、相手やその仕事に対して貢献しているという実感をもつことができるのは、仕事に対する満足感や充実感にもなります。

感情の疲れにも適切な対処が必要

感情労働を本人がどう捉え、感情をどう扱うかによって、自分自身のメンタルへの影響は変わります。しかし、本人の意識に関わらず、感情をコントロールするという作業自体が心身へ大きな負担をかけます。そして、感情を強くコントロールした場合や長くコントロールし続けた場合には、主に精神面への負担が大きくかかります。

例えば、肉体労働の場合だと、働き続けることで、身体の各所に痛みが生じたり、身体が思うように動かなくなったりするため、ストレスや疲労を自覚しやすいです。頭脳労働の場合でも、ストレスや疲労の蓄積により、頭がぼーっとして考えられない、目の前のことに集中できないといった状態になり、疲労感に気づきやすくなります。

しかし、感情労働の場合だと、感情が疲れていても身体は動くし頭も働くので、疲れていることに気づかないまま無理を続けてしまうことがあります。感情の疲れを感じていたとしても「まだ大丈夫」と対処を先送りすることにより、回復を遅らせてしまいやすいのです。

また、感情そのものは、仕事を終えたからと言って働きが止まるわけではないので、プライベートにまで仕事の影響を引っ張ってしまうことにもなります。そうなると、メンタルの状態としては、ストレスがかかり続けることになるので、結果として、バーンアウトや共感疲労を起こしてしまうことや、適切な対処をせず放置したままでいれば、うつ病や適応障害などの精神障害に陥るリスクさえも高まります。

※バーンアウト(燃え尽き症候群)

今まで普通に仕事をしていた人が、急に燃え尽きてしまったかのように、意欲を失ってしまう状態(Freudenberger,1974)。

※共感疲労

他人の気持ちに共感したり同情したりすることにより、当事者でないにもかかわらず、自分のこころが疲れてしまう状態(Figley,C.R. 2002)。

※精神疾患(うつ病、適応障害など)

→うつ病:
精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態

(詳しくは、圓山氏のブログ「うつ病からの脱出(1)」もご参考ください)

→適応障害:
ある社会環境にうまく適応できず、さまざまな心身の症状が出現して社会生活に支障をきたすこと

(詳しくは、圓山氏のブログ「適応障害とは」もご参考ください)

感情労働は必要か?

感情労働をしない、感情を働かせない、という方向で対処を考えることができたら、物事はシンプルかもしれませんが、ヒューマンサービス業で働く人にとって、感情労働は欠かせません。

また、昨今では、顧客満足を追求する働き方の増加により、ヒューマンサービス業の括りではない職業の人にも感情労働が必要になってきています。つまり、社会全体として感情労働が求められる世の中になっているようです。

そして、何より、感情労働にはネガティブな側面だけでなく、ポジティブな側面もあり、働きがいや仕事に対する満足感など、良いストレスを得られる機会でもあります。そのため、対処の方向としては、感情労働をしながらも、よりよく働くために自分の感情をどのように扱うか、を考えていくと良いのではないでしょうか。

自分のこころを守るためにできること

感情労働を行う上で、仕事上での役割と自分自身との区別ができなくなる、仕事中に表現する感情を自分の感情であるかのように捉えてしまうなどの状態が起こることがあります。そうすると、求められた役割に過剰適応してしまったり、仕事とプライベートの境目がなくなってしまい、疲弊してしまうことになります。

そのため、働く自分と本来の自分を分けて捉えること、つまり、オンオフの切替えをしっかり意識することが大切です。ただ、オンオフを切替えだけでは、仕事中に生じた感情はなくなるわけではありません。特に強烈な出来事に遭遇した場合や強い感情が生じた際には、感情の整理が難しく感じることもあります。

手放すための行動をとることは効果的です。人に話したり、日記に書いたり、言葉以外のやり方で表現するなど、手放し方は人それぞれです。家庭や仕事場以外の居場所(サードプレイス)をもつことも有効であると言われています。

組織が従業員のためにできること

従業員それぞれが感情労働に対する理解を深め、セルフケアに努めるだけでは、対策は十分ではありません。組織全体として、働き方や業務内容を理解し、現場で起こっている問題への対策を講じることが重要です。
そのために組織としてできることは、大きく2つあります。

  1. 従業員が本来の感情を吐き出す場所をつくること
  2. ポジティブな生の感情(本来の感情)をもつ場所をつくること

取組みとしては、個人へのアプローチと、集団へのアプローチがあります。個人へのアプローチとしては、組織内外に相談できる体制を整えることが有効です。人に話すことで抱えている思いを手放すことができたり、一人ひとりが自分の働き方を見つめ直す機会にもなります。

集団へのアプローチとしては、グループカウンセリングのような形での取組みが良いかもしれません。仕事から少し離れて気持ちを切替える時間になりますし、同じ職場で働く人がお互いの思いを聞き、語り合える時間をもつことは、安心感に繋がり、信頼関係のコミュニケーションを増やす場としても期待できます。

他にも、各組織で既に実施している取組みが感情労働への対策として活用できるものもあります。
例えば、ストレスチェックの実施は、従業員が自身の健康度を確認することができ、感情労働によるストレスへの対処を考える機会にもなります。

また、ヒューマンスキルやセルフケア能力の向上を目的とした研修の機会をつくることは、従業員が働く上で必要な知識やスキルを身につけることができ、よりよく働くことに繋がります。

上記の取組みは、メンタルヘルス対策に限らず、生産性を上げるためにも必要なことであり、組織が担う重要な役割であると言えます。

早期発見、早期対応に努めることで、従業員にとっての働きやすい職場になるだけでなく、組織として安定的な経営や人材確保も望めます。現場の声を聞き、必要な対策を講じることができるよう、組織としてできる取組みを実行していくことを目指してください。

参考文献

・石川 准・室伏 亜希(2012) 管理される心-感情が商品になるとき- 世界思想社
・久保真人(2007) バーンアウト(燃え尽き症候群)-ヒューマンサービス職のストレス

この記事を書いた人は

徳田翔子
徳田翔子
◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第33487号

◆所属学会:
日本心理臨床学会

奈良県臨床心理士会会員

◆活動状況:
資格取得後、自殺予防に関する相談業務や児童発達支援などの心理業務に携わる。
教育機関や医療機関でのカウンセリング、心理検査などの経験を経て、現在は医療臨床及び産業臨床に従事している。