特定の場面において、感じるべき感情が決められている

今回は、感情労働という考え方の中で「感情規則」について解説していきます。

日常や仕事場面で、相手にイライラしながらも、「怒ってはいけない」と感情を抑えたり、相手が冗談を言ってきた時に「笑わなければ」と思い笑顔で振る舞ったりなど、誰しもそのような経験をしたことがあるのではないでしょうか?

私たちは、その時々で自分の中に生じた感情をいつも自由に表現しているわけではなく、場面や状況に応じて、“こうすべき”とか、“こうしてはいけない”といった判断を行い、その場に適した感情を表したり、抑えたりすることがあります。

その場に適した感情とは?

例えば、結婚式の場面をイメージしてみてください。新郎新婦を祝福する気持ちをもち、その場にいる誰しもが笑顔で幸せそうにしているイメージをする方が多いと思います。

一方で、お葬式はどうでしょうか。結婚式とは異なり、笑顔や祝福する感情というよりも、悲しみや落ち込みといった感情をイメージするかと思います。その場で笑っていたりすると、「不謹慎だ」「場にそぐわない」と不適切に思われることもあります。

これらのことから言えるのは、結婚式の場面には「結婚は喜ばしいことだ」「新郎新婦を祝福しなければならない」「(新郎新婦が)自分たちは幸せだ」というような感情をもつことが、お葬式の場面には「死は悲しいことだ」「故人を悼むべき」といった感情をもつことがそれぞれ適切だとする決まり事のようなものがあるということです。

そのような特定の場面において、感じるべき感情が決められていることを、社会学者であるHochschild(ホックシールド)は「感情規則」と名付けました。

感情規則:特定の状況において、特定の心理状態(感情状態)になるはず、というある集団において明確なもの

ある集団というのは、人の集まりを言います。社会にはあらゆる集団が存在し、家族や友人などの小さな集団から学校や企業などの大きな集団までさまざまです。そして、それぞれの集団には、道徳や倫理、ルール、慣習などといった、その場やその時々の出来事に対して、どのような感情を表すことが適切なのかを判断するための規則や規範、つまり感情規則があります。

上記で述べた、結婚式で喜びの感情を見せることや、お葬式で悲しみや落ち込んだ様子を見せることなどは、その場に適切な感情として表すことが求められている一例です。他にも、「笑顔で挨拶をする」「不機嫌な表情を表に出さない」などは、社会人のマナーとしてそうすることを求められる場面も多いかと思います。

また、某ファーストフード店の「スマイル0円」という謳い文句はわかりやすい規則の一つであると言えますが、「お客様には笑顔で接する」「イライラしても表情に出さず笑顔を絶やさない」などのように、接客業として働く上で適切だとされる感情もあります。

他にも、看護師や介護士などの対人援助職の方々が、患者や利用者に対して、「親切に」「怒ったり泣いたりせず」「相手の気持ちに共感するように接する」ことなども、その職業に課されている感情規則と言えます。

労働場面での感情規則

労働場面においては、その場で表すべき感情を自分で決めるというよりも、会社(組織)によって決められており、その規則に従って適切な感情(その場で感じるべき感情)を表すことが、労働者には必要とされます。

そのため、労働者は規則から外れた感情(その職業にとって不適切な感情)を表すことは許されず、会社(組織)から求められる感情と、その時々で個人が感じる感情との間にギャップがある場合には、「表層演技」や「深層演技」を駆使して、自らの感情を適切な感情(表出すべき感情)と一致するように修正しなければなりません。

つまり、たとえ内心イライラしていたとしても、笑顔でいることが適切だとされる場面では、イライラを抑えて笑顔をつくったり(表層演技)、あたかも元からそう感じていたかのように、自分の感情をコントロールして笑顔を作りだしたりすることが必要になります(深層演技)。
※表層演技と深層演技について、詳しくは前章のブログをご覧ください。

感情規則は共通ではなく、集団によって異なる

感情規則そのものは、あらゆる集団の中に存在し、同じような場面だとしても、それぞれの集団によって求められる感情が異なる場合もあります。日本のお葬式は、個人の死を嘆き悲しむことが一般的とされますが、国によっては、踊ったり笑ったりすることで故人を見送るようなやり方もあり、文化の影響を受けることもあります。

また、人と話している際に、相手から「~だと思わない?」と聞かれたり、「~だよね?」と相手に同意を求めたりしたことがあると思います。こういった言葉かけも、相手に特定の感情をもってもらうように期待するやり取りであり、私たちは、普段の何気ない会話の中でも、相手の言葉から期待されている感情を汲み取り、それに合わせて自分の感情を表現するといった作業を行っているのです。

感情規則に従わない、あるいは、期待とは異なる感情を表すと、その場の雰囲気を壊してしまったり、他者からは「変わった人」「空気の読めない人」といった評価をされることもあります。

感情規則は目に見える形で示されるわけではありません。もちろん、労働場面においては、マニュアルのように提示される場合もありますが、意識されていないことも多いです。私たちは、その場その時に、相手から、あるいは、職業上求められる感情規則を汲み取り、それに従って感情をコントロールすることで、集団の秩序を守っているのです。

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この記事を書いた専門家

國司 翔子
國司 翔子㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第33487号

◆所属学会:
日本心理臨床学会

奈良県臨床心理士会会員

◆活動状況:
資格取得後、自殺予防に関する相談業務や児童発達支援などの心理業務に携わる。
教育機関や医療機関でのカウンセリング、心理検査などの経験を経て、現在は医療臨床及び産業臨床に従事している。