心身のエネルギーを消耗して急に無気力になってしまうバーンアウト

バーンアウトとは、一つの物事に熱心に取組んできた人が、心身のエネルギーを消耗したことで、急に、あたかも「燃え尽きたように」意欲を失ってしまい、無気力な状態になってしまうことを言います。

バーンアウトは、日本語では「燃え尽き症候群」とも呼ばれ、アメリカの精神心理学者であるハーバート・フロイデンバーガー(Herbert J. Freudenberger)により1970年代に提唱されました。

バーンアウトという状態は、元は医療や福祉、教育現場などの対人援助に従事する人に多く発生すると言われてきました。しかし、時代や働き方の変化に伴い、現在ではさまざまな職種や業種で、バーンアウトになる人が多くみられます。

例えば、日々目の前の仕事に一心不乱に取組み続けた時、長年力を注いできたプロジェクトがひと段落ついた時などに、それまでの熱意はどこにいったのかというように、急になくなってしまい、心身ともに疲弊してしまった、あるいは、何もしたくないという気持ちを経験したことのある人は多いのではないでしょうか。程度の差はあれど、バーンアウトは、多くの人が経験し得ることなのです。

バーンアウトの症状

バーンアウトは、「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感の低下」という3つの症状から定義されています。

※クリスティーナ・マスラーク (Christina Maslach) が開発したアセスメントツール:Maslach Burnout Inventory(MBI)による定義。

情緒的消耗感:仕事を通じて, 情緒的に力を出し尽くし, 消耗してしまった状態

身体の疲労ではなく、心理的(感情的)な強い疲労感、虚脱感をいいます。いわゆる「心が(精神的に)疲れた」状態です。

情緒的消耗感の症状例

  • 1日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある。
  • 仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある。
  • 身体も気持ちも疲れはてたと思うことがある。

脱人格化:相手に対する無情で, 非人間的な対応

人との関わりを避ける、仕事の価値が見いだせなくなる、相手の人格を無視したきまりきった対応をするなど、機械的に人と接する傾向をいいます。

相手をステレオタイプ的な特徴でラベル付けする、相手の名前を呼ばなくなるなど、相手に対する思いやりの欠ける行動をすることで、心理的に相手と距離を置き、気持ちがすり減ってしまうことを防ごうとします。

脱人格化の症状例

  • こまごまと気くばりすることが面倒に感じることがある。
  • 自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある。
  • 今の仕事は、私にとってあまり意味がないと思うことがある。

個人的達成感の低下:対人サービスの職務に関わる有能感, 達成感の低下

個人的達成感とは、物事をやり遂げた時に感じるやりがいや充実感のことをいいます。情緒的消耗感や脱人格化が起こると、それまで行ってきたようなサービスを維持することができず、サービスの質は低下してしまいます。

仕事へのやる気もなく、相手に対する思いやりのない態度は、その仕事を一生懸命やってきた人であればあるほど、自身の働き方に疑念がわき、成果や達成感を得ることが難しくなります。

個人的達成感の低下の症状例

下記の項目があてはまらない状態が強いほど個人的達成感の低下が考えられます。

  • われを忘れるほど仕事に熱中することがある。
  • この仕事は私の性分に合っていると思うことがある。
  • 今の仕事に、心から喜びを感じることがある。

バーンアウトが生じる原因

バーンアウトは、ストレッサーによって引き起こされるストレス反応であると言われており、以下の要因が主に考えられています。

①個人的要因

個人的要因としては、性格や年齢、個人の経験などが関係し、若年者やその仕事の経験年数の少ない人がよりバーンアウトしやすいと言われています。年齢が若い、あるいは、経験年数の少ない人ほど、理想と現実との間にギャップが生じやすいと考えられるためです。

また、個人の性格特徴としては、物事への向き合い方としての「ひたむきさ」「人と深く関わろうとする姿勢」が挙げられます。自分のやるべきことにひたむきに取組んだり、目の前の相手に対して、思いやりをもち献身的に関わる人ほど、バーンアウトしやすいようです。

②環境要因

バーンアウトが発生する背景には、勤務時間や作業量などの量的な負担だけではなく、質的な負担の影響も大きいと言われています。

勤務時間が長くても、情緒的な消耗を要する作業が少ない場合には、バーンアウトのリスクはさほど高くはありません。しかし、自分の意志が通らず他者から仕事を強制される、仕事の裁量度が低いなど、自律性のない職場では、仮に仕事を達成したとしても、充実感よりも押しつけられた徒労感の方が残りやすく、バーンアウトを引き起こすリスクも高くなります。

また、職場の上司や同僚による支援も重要な要因となり得ます。仕事に対する困り感や悩みごとを相談できたり、援助してもらえるような支援体制が整っている環境では、比較的バーンアウトが起こりにくいとされています。加えて、職場の人間関係以外でも、家族や友人からの支持や支援が得られる環境は、ストレスの減少に役立ち、バーンアウトのリスクを減らすことにつながります。

③感情労働

感情労働は、自身の感情を管理してサービスを提供する働き方であり、感情を操作して笑顔を作り出したり、ネガティブな感情を表に出さないよう抑えたりと、気持ちがすり減りやすい働き方であると言われています。そのため、感情労働がバーンアウトを促進することが多くの研究で指摘されています。

また、感情労働を行う場面では、仕事上求められる役割や望ましい振る舞いを意識的に行うことが求められるため、仕事上の役割と本来の自分とを切り離して考えることができないと、相手との関わりの中で生じるあらゆる反応(ポジティブな反応もネガティブな反応も)を自分自身に向けられたものだと捉えてしまい、その負担感に耐えられずバーンアウトしてしまうというケースもあります。

バーンアウトしないために

個人としてできること

仕事へのやる気や熱意を失わず、健康に働き続けるためには、バーンアウトしないための対処法を身につける必要があります。

  • 自分の職場や仕事に対する向き合い方を工夫する
  • 周りの人からの支持や支援を得る
  • 気持ちの切替え、リフレッシュの時間をつくる
  • 仕事上の役割と自分自身とを分ける

職場環境や仕事の量的・質的な負担の改善は、個人の努力だけでは難しい場合が多いですが、仕事への取り組み方は自分の力で変えることができるし、自分の考えに基づいて、物事を判断したり決定したりすることは、バーンアウトの防止策として有効です。つまり、決められた仕事や指示された仕事だとしても、その仕事に対して「強制されている」「やらされている」という気持ちで取組むよりも、自分で決めて、進めているという感覚をもつことで、仕事への向き合い方が変わり、楽しみながら仕事をすることにもつながります。

困った時や悩んでいる時、嫌なことがあった時などに、相談したり、愚痴を吐いたり、話せる相手がいて、その機会が多くあることも効果的な対処になります。職場の上司や同僚、家族、友人など、身の回りの人からの支持を得ることで、情緒的な消耗(こころの疲れ)が蓄積されることを防げます。

また、仕事や仕事上の役割から離れ、気持ちを切替えるための時間をもつことも大切です。これは、バーンアウトに限らず、ストレス対処として基本的な予防策です。対人サービス業においては特に、仕事をする上での態度として、相手への思いやりや共感的な関わりをすることが必要不可欠です。しかし、相手に共感しすぎたり、仕事上の役割と自分自身とをひとまとめにしてしまうと、バーンアウトにつながるリスクが高まります。そのため、相手への共感をもって接しながらも、一定の心理的な距離をとり、客観的な態度をもつことがバーンアウトから自分を守るために必要です。

職場としてできること

上述の通り、バーンアウトには環境要因が密接に関係しています。そのため、従業員一人ひとりのバーンアウトのリスクを減らすために、職場としてできることを考え、対策していくことが重要です。

  • 仕事の量的・質的な負担の確認・調整
  • 共感と思いやりのある職場づくり
  • 精神的なサポートを行う体制をつくる

量的な負担は、本人だけでなく周りの人からも見えやすいため、勤務時間や仕事の進行・達成状況などを確認し、過重な負担を調整することが必要です。

一方で、質的な負担は、周りの人からは見えにくいため、本人との関わりをもち、こまめに確認する機会をつくると良いでしょう。職場内で気軽にコミュニケーションがとれ、困りごとや悩みを解消できるサポート体制のある職場は、バーンアウトの予防に有効なので、例えば、メンター制度や1on1などを実施して、仕事の状況やそれに関わる負担感を確認することも効果的です。

信頼関係のコミュニケーションを増やし、思いやりのある人間関係の構築を目指すことで、職場で起こった問題にも協働して取り組みやすくなり、業務の効率化、生産性の向上も期待できます。

参考文献

・久保真人(2007) バーンアウト(燃え尽き症候群)-ヒューマンサービス職のストレス

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この記事を書いた専門家

國司 翔子
國司 翔子㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第33487号

◆所属学会:
日本心理臨床学会

奈良県臨床心理士会会員

◆活動状況:
資格取得後、自殺予防に関する相談業務や児童発達支援などの心理業務に携わる。
教育機関や医療機関でのカウンセリング、心理検査などの経験を経て、現在は医療臨床及び産業臨床に従事している。