心理職が提案するパワハラをしないで部下を育てる方法 第二弾スタート
Ⅱ.パワハラをしないために
身につける必要のあるマインド
- その① ドライバーを緩める~ドライバーフリー
- その② ディスカウントしていることに気づく~ディスカウントフリー
- その③ 怒りのコントロール~アンガーマネジメント
ドライバーを緩める「ドライバーフリー」
TA心理学(Transactional Analysis:交流分析)では、ドライバーという心の動きを説明しています。日本語訳をすると「駆り立てられる命令」となります。
私たちは、親や親的存在に育てられる中で「しつけ」の言葉を内面化し、それを思考や感情・行動の源泉として使います。
あなたが親からよく言われた言葉はなんでしょうか。もしかしたら、しつけらしい言葉にはなっていないものもあったかもしれません。
TA心理学では、ドライバーは5つあると言われています。
Be Perfect(完璧であれ) | <しつけ例:きちんとしなさい> |
Be Strong(強くあれ) | <しつけ例:えらいねぇ、一人でできたねぇ> |
Please Others(他人を喜ばせよ) | <しつけ例:人に迷惑をかけてはいけません> |
Try Hard(努力し続けよ) | <しつけ例:もっとがんばりなさい!> |
Hurry Up(急げ) | <しつけ例:さっさとしなさい> |
- Be Perfect(完璧であれ)
例えば筆者は子どもの頃、親と一緒に電車に乗った先で切符をなくしてしまったことがあります。
すると父親がとてもイライラした声で、「きちんと同じ場所に入れておくようにしたらこういうことは起きないんだ!」と私を叱りました。この出来事で筆者は、「きちんとする」ことを学びました。筆者の中に入ったドライバーは「Be Perfect(完璧であれ)」でした。
筆者は、本気で取り組んだことを「完璧に」こなすことで満足します。特に職業柄、文章には厳しく、誤字脱字はその人の人間性を疑うくらいに気になります。自分がつくる文章は、常に隅々まで気を配り、誤字脱字は徹底的に排除します。
これは、仕事をする上でとても有効ですよね。専門家として信頼されることにもなりますし、ビジネスピープルとしても優秀さの一つの指標になるでしょう。しかし、ストレスフルになった時に、Be Perfectのドライバーから抜け出すことができないと、自分に対しても部下に対しても、完璧さを求めすぎてしまうことになります。自分に対して完璧さを求めすぎると、過重労働を課してしまって疲弊してしまうかもしれませんし、他者に対して完璧を求めすぎるとハラスメントをしてしまう可能性が出てきます。
- Be Strong(強くあれ)
Be Strong(強くあれ)のドライバーを使うと、何があっても冷静に物事を判断することができます。しかし、ストレスフルになってこのドライバーから抜け出せなくなると、一人で全部やろうとして、やっぱり自分自身が疲弊していくことになりますし、部下の仕事をとりあげたり、誰にも頼ることができずに追い込まれて、イライラを相手にぶつけるようなハラスメントになってしまう可能性があります。
- Please Others(他人を喜ばせよ)
Please Others(他人を喜ばせよ)のドライバーを使うと、仲良く仕事をすることができてチームワークがよくなるでしょう。しかし、ストレスフルになってこのドライバーから抜け出せないと、自分を大切にできないことで疲弊していったり、部下を適切に叱ることができず、甘やかしが発生し、その結果、部下がわがままになって仕事の指導をしているのにハラスメントだと叫びだすかもしれません。
- Try Hard(努力し続けよ)
Try Hard(努力し続けよ)のドライバーを使うと、一生懸命仕事をします。新しいことにも挑戦するし、たくさんの仕事をこなすかもしれません。しかし、ストレスフルになってこのドライバーから抜け出せなくなると、当然、頑張り続けて疲弊することになりやすいですし、頑張っていない人が許せなくなってハラスメントをしてしまうかもしれません。
- Hurry Up(急げ)
Hurry Up(急げ)のドライバーを使うと、仕事をチャチャっと効率よくこなします。いろんな仕事を締め切りの前倒しで完成させるでしょう。しかし、ストレスフルになってこのドライバーから抜け出せなくなると、いつも焦っている状態になりますね。仕事を着実にやろうとする部下のスピードが遅いと感じ、イライラを部下にぶつけてハラスメントになるかもしれません。
ドライバーに気づいてそれをコントロールできるようにする
これら5つのドライバー全部を我々はしつけられて内在化していることが多いですが、一つか二つ、特によく使うドライバーがあります。それを一次ドライバーと言います。
一次ドライバーから抜け出るためには、ドライバーに気づいてそれをコントロールできるような言葉を自分にかけることが大切です。この言葉を「緩める言葉」とか「魔法の言葉」と言うことがあります。
ちなみに筆者はドライバーがどれも強いように思います。もちろん、それによってワークキャリアを高めてきたのですが、一つ一つのドライバーを緩めるための言葉も少しずつ積み上げてきました。
研修でもよく事例としてお話しするのですが、学生時代、筆者はスポーツを頑張っていて、中学時代に県でシングルス優勝をし、近畿大会でも3位にまでなりました。高校でも進学校ではありましたがそのクラブに入り、平日は学校で練習し、土日は実業団に練習に行っていました。その努力が実って、高校でも県大会を優勝して、インターハイまで行きました。
ある時、同級生の一人が、「来週からアルバイトを始めるからクラブには週3日しか来ない」と言い出しました。その時、筆者の中のBe PerfectとTry Hardのドライバーが活性化して、その同級生を許せなくなり、言い合いになって、その同級生はクラブを辞めました。
その時、クラブの顧問の先生が、「お前の言っていることは正しい。だけどな、まあ、ええやないか。」と、筆者に笑いながら言ってくれました。その時の筆者はその言葉を受け取ることはできませんでしたが、その後も、ことあるごとに、正義(だと筆者は思っている)をふりかざす筆者に「まあ、ええやないか」と言ってくれ、そのうちに徐々にその言葉が筆者の心の中に浸透し、今では、ドライバーに振り回されそうになると心の中で、「まあ、いいか」とつぶやくことができるようになりました。
自分を駆り立てる価値観に気づき、それを少し緩めることができる言葉をみつけて、自分にその言葉をかけることでパワハラになりそうな言動・行動をすることがなくなるのではないでしょうか。
これは、「やってはダメ」の情報提供にとどまらず、職場での心理的安全性をいかに高めて、生産性を高めることができるかに繋がっている育成となっているからです。
当社のハラスメント対策については、こちらもご覧ください。
この記事を書いた専門家
- ◆資格:
臨床心理士、CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー)
第1種衛生管理者、国際TA協会認定CTA(Certified Transactional Analyst)
◆所属学会等:日本産業衛生学会、日本産業ストレス学会、日本産業カウンセリング学会、日本交流分析学会、国際TA協会
◆得意分野:
働く人への短期療法的カウンセリング、TAカウンセリング
ラインケア・セルフケア研修、コミュニケーション研修、人事部門・健康管理部門へのメンタルヘルスコンサルティング最新の投稿
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