今回は、職場におけるストレスについて考えていきましょう。
ここでは、職業性ストレスに関する代表的な理論モデルの2つを紹介します。ひとつは、仕事の要求度-コントロール(-サポート)モデルです。もうひとつが、努力-報酬不均衡モデルです。

1,仕事の要求度-コントロ ール(-サポート)モデル
カラセック(Karasek、R.A.)は、作業の量的負荷による健康影響が、管理職では小さく組立ラインの作業者では大きいなど職種によって異なることに注目し、従来の業務遂行量や役割の不明瞭性だけによって従業員のストレス反応が生起する考えから、職場での心理社会的ストレッサーを仕事の要求度とコントロールという2つの要因とその組合せによってストレス反応の量が変化すると考えた「仕事の要求度-コントロールモデル」を提案しました。
仕事の要求度とは
仕事のペース、量、時間の他、仕事の際に要求される精神的集中度や緊張の程度
仕事のコントロールとは
仕事のやり方に関する決定権、知識や技術の使用範囲

表1:仕事の要求度とコントロール
要求度が高く、コントロールの低い「高ストレイン群」が最も心理的緊張が強く、疾病のリスクが高いと想定されます。
要求度が高くコントロールが高い「活性化群」では、活性水準が高まり生産性が上がると仮定されており、職場での満足度が高いことが報告されています。(Karasek&Theorell)
本モデルでは、仕事の要求度に見合うように仕事のコントロールを与えることが、職場環境の改善にとって重要とされます。長時間労働や過大な作業量を避けることに加えて、従業員の裁量権や自由度を作業の量や責任に見合うように引き上げることが、労働者のメンタルヘルス増進に寄与しうるということが示唆されています。
その後、「要求度-コントロールモデル」に職場における社会的支援が追加され、「仕事の要求度-コントロール-サポートモデル」が提唱されました。(Johnson&Hall)
このモデルでは、要求度が高く、コントロールが低く、社会的支援が少ない場合に、最もストレス反応が高くなることが想定されています。
女性ではコントロールよりサポートによる影響が大きいことが示唆されています。ストレス対策のポイントとして、上司・同僚との相互交流の機会を増やすことや、昇進や研修について明確にすることがあげられます。
本モデルは、厚生労働省のストレスチェックのツールである「職業性ストレス簡易調査票」の中で、労働者のストレスや健康リスクにどの程度の影響を与えているかについて判定する「仕事のストレス判定図」の根拠の考え方になっています。
健康リスクの全国平均を100として100を超えて数字が大きくなるほど健康リスクが高いことを示しています。仕事のコントロールの得点が高く仕事の量的負担の得点が低いほど健康リスクの得点が低くなっています。また、上司の支援の得点が高く同僚の支援の得点が高いほど健康リスクの得点が低くなっています。


図1:仕事のストレス判定図
2,努力‐報酬不均衡モデル
ドイツの社会学者 シーグリスト(Siegrist,J.)らは、行動経済学とストレス理論との双方の観点から「努力‐報酬不均衡モデル」を提唱しました。このモデルは、仕事の遂行のために行われる「努力」の程度に対して、その結果として得られる「報酬」が不足の場合に、より大きなストレス反応が発生する危険性が高いというモデルです。
「努力」とは
外在的努力:仕事の要求度、責任、負担
内在的努力:自分自身の期待、要求水準を満たすことへの対処
「報酬」とは
経済的報酬(金銭)、心理的報酬(尊重)、キャリア(仕事の安定性や昇進)
努力-報酬不均衡状態(ストレス反応が高くなる状態)
- 仕事量が多いのに不安定な仕事
- 昇進の見通しや適切な報酬が与えられることなく高レベルの業績を求められる仕事
- 一生懸命やっているのに正当に評価されない仕事

図2:努力-報酬不均衡モデル
職場環境改善のポイントとして、昇進や昇格のステージの明確化、研修や資格取得の機会の整備、納得できる人事評価・考課、表彰制度などがあげられます。
また、従業員への日頃の労いの言葉かけなどの管理監督者の人材育成スキルアップのための研修も有効な手段になります。


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この記事を書いた専門家
- ㈱ホリスティックコミュニケーション
- ◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第38621号
キャリアコンサルタント 登録番号 17063746
精神保健福祉士 登録番号 第76892号
社会福祉士 登録番号 第210281号
介護福祉士 登録番号 第44160号
◆所属学会:
日本産業ストレス学会
京都府臨床心理士会会員
◆活動状況:
市役所にて精神保健福祉相談員として自殺予防、相談業務に従事し、その後、総合病院精神科にて心理士として医療臨床に従事している。
現在は、ホリスティックコミュニケーション京都ルーム室長として、ストレスチェックや産業臨床に従事している。最新の投稿
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