今回もどういったストレス要因が人の健康に影響を与えているのかを考えていきましょう。

ライフイベント法

4でホームズとレイが提案したライフイベント法を紹介しました。

ライフイベントとは、配偶者の死や離婚、結婚といった人生の中で重要な出来事ですが、ライフイベント法はライフイベントとその健康への結果の間の相関が非常に低いという課題がありました。

そこで、 ラザルス(Lazarus,R.S.)は、ライフイベント法は、

  1. ストレスというものを生活の変化と捉えていること、
  2. 出来事の個人的な意味合いが無視されていること、
  3. 対処行動が無視されていること

を指摘しています。

ライフイベントとデイリーハッスル

ラザルスは、日々に起きるどちらかといえば小さくマイナーな、私たちが日常経験する煩わしさ、たとえば、物忘れや紛失、借金の心配、睡眠不足のような事をデイリーハッスルとし、全部で117項目からなるストレス尺度をつくりました。そして、ライフイベントとデイリーハッスル とで、心理的な症状や身体的な症状との関係を調べました。

調査の結果

  1. ライフイベントよってもたらされたと思われる結果の要因は、ほとんどすべてデイリーハッスルとも関わりのある結果要因でした。
    たとえば、配偶者の死や離婚、結婚というようなライフイベントは、容易にその後の人間関係を変化させてしまうものであり、そして、そのような変化は日常生活のパターンや習慣を大きく変え、その結果、デイリーハッスルが起こるものと考えられます。
    このようにライフイベントというものは、デイリーハッスルと無関係には、健康上に何ら影響を及ぼすものではありませんでした。
  2. デイリーハッスルの影響によってもたらされたと思われる健康上の結果要因のほとんどは、ライフイベントとは、必ずしも関わりを持つものではありませんでした。

同様の調査を積み重ねた結果,ラザルスが導き出したのは,「実際の生活においては,ライフイベントよりもデイリーハッスルの集積の方が健康への影響が大きい」という事でした。

デイリーハッスルと健康

また、ラザルスはデイリーハッスルと健康結果についての関係を調査しました。
150人の病気の症状を持っている被験者による報告を6か月間20回収集しました。

  1. その間の症状の上がり下がりを観察し、比較的小さくかつ短期的な病気の症状を追跡しました。
  2. 併せてそれぞれの測定時点で、その時の気分について、肯定的な気分か、あるいは否定的な気分かを測定しました。
  3. それに加えてデイリーハッスルのストレスの度合いも測定しました。

調査の結果

  1. 病気の症状が増強した時点には、デイリーハッスルで測定した高ストレスの時期が先行する傾向がありました。逆に疾病の症状が低い時には、ストレス状態の低い時期が先行する傾向がありました。
  2. 同じ所見が気分の状態にも認められました。肯定的な気分が高くなることは低ストレスの日々の後に続き、否定的な気分がより大きくなるのは高ストレスの後になる傾向がありました。

また、ある人はストレスの後でより良い健康状態を報告し、他の人はストレスの後でより悪い健康状態を報告する個人差によるばらつきがありました。しかし、全体としてのより強い傾向は、ストレスの後でより多くの疾病の症状があるという結果でした。

ラザルスは、デイリーハッスルは、実際に起こった出来事そのものを反映するのではなく、個人の日常生活の根底に横たわる様々な条件や環境、そしてそのような条件や環境での出来事の体験が個人によってどのように受け取られ、評価されていくかによって、導かれるものとしています。
また、このデイリーハッスルは、対処の仕方の良し悪しによって、かなりの影響を受けるものとしています。

まとめ

ラザルスは、ライフイベントよりも日常生活における些細な苛立ちごとであるデイリーハッスルのほうがストレスへの影響が大きいことや主観的な認知の重要性を実証的に示しました。彼は、出来事をどのように認知したか、個人差を重視し、個々の感じ方の程度を測定することの有用性を主張しました。

ラザルスのデイリーハッスル理論を要約すると、ストレスフルな状況は諸個人の認知に基づき、日常生活で遭遇する些細な煩わしさや、非日常生活な出来事に伴って発生する日常生活上の煩わしさの蓄積がストレス反応に関係するということになります。

最後にラザルスは、1963年に早稲田大学心理学教室の客員として家族で1年間来日されており、親日家であったことが知られています。

参考資料

1.羽岡邦男,労働ストレス研究(1)-職場ストレスモデルに関する-考察-,政治学研究論集,15,2002.2

2. R・S・ラザルス講演 ストレスとコーピング -ラザルス理論への招待-, 林俊一郎 編・訳, 星和書店
3.ストレスの心理学 -認知的評価と対処の研究, リチャード・S・ラザルス, スーザン・フォルクマン, 本明 寛, 春木 豊, 織田 正美 監訳, 実務教育出版

弊社ではメンタルヘルスに関するさまざまなご相談を承っております。

この記事を書いた専門家

西島雅之
西島雅之㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第38621号
キャリアコンサルタント 登録番号 17063746
精神保健福祉士 登録番号 第76892号
社会福祉士 登録番号 第210281号
介護福祉士 登録番号 第44160号

◆所属学会:
日本産業ストレス学会
京都府臨床心理士会会員

◆活動状況:
市役所にて精神保健福祉相談員として自殺予防、相談業務に従事し、その後、総合病院精神科にて心理士として医療臨床に従事している。
現在は、ホリスティックコミュニケーション京都ルーム室長として、ストレスチェックや産業臨床に従事している。