新型コロナウイルスの心理的ストレス
新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な脅威に伴い、これまでの日常生活から一変して、休業や在宅勤務、外出自粛など 、多くの人が新たなストレスに直面しました。新型コロナによるストレスといっても、収入減による生活不安や人との関わりが失われる孤独、基礎疾患による感染への不安など人によってストレスの内容は様々です。また、同じ在宅勤務を強いられたとしても、自宅での居場所の確保や職場のコミュニケーション欠如で否定的に感じる人がいる一方で、趣味や家族との交流に携わる時間が増えたことで肯定的に感じる人もいます。このように同じような状況下にあってもストレスの程度には個人差があります。
ラザルスの心理的ストレスモデル
ラザルスは、ストレッサーが直接ストレス反応やその後の疾病を引き起こすのではなく、人間と環境の関係性のなかで捉えられ、各々の個人の評価によってストレス要因の内容やストレス反応の有無・程度が異なるという「心理的ストレスモデル」を提唱しました。
ストレッサーに対する個人的な意味を重視するラザルスは、ストレス反応に至る心理的ストレスの過程として、認知的評価と対処(コーピング)の概念を導入しました。人はストレスを受けるとその刺激がどういうものかを判断し(認知的評価)、それに対して環境に変化を加えながらどのようにしてストレスに対処(コーピング)していくことができるかを考えます。
認知的評価
認知的評価は一次的評価と二次的評価の2つに区分されます。
一次的評価
その出来事が自分にとって困るのかどうかの評価
二次的評価
その出来事に対処できそうかどうかの評価
一次的評価
一次的評価として、出来事が自分にとって
- 「無関係」
- 「無害-肯定的」
- 「ストレスフル」
の判断を行います。
「ストレスフル」な評価はさらに
- 「害・損失」
- 「脅威」
- 「挑戦」
の3種類に区分されます。例えば、
「害・損失」
大学受験に失敗し浪人として1年過ごさないといけないと考えた場合
「脅威」
次の年に大学を再受験し不合格になる可能性を考えた場合
「挑戦」
浪人生活を人生においての良い機会ととらえた場合
このように同じ状況に対しても、異なる評価を行うことがあります。
「脅威」が恐怖や不安、怒りなどの否定的な情動に対して、「挑戦」は熱意や興奮、好奇心といった肯定的な情動の特徴があります。
大事なことは、ストレッサーの捉え方(認知的評価)によってストレス反応への影響が変わってくることです。ストレッサーを肯定的な捉え方をすることで、ストレスを低減することができます。
二次的評価
「ストレスフル」と判定された出来事に対して、
- それにどう対処するべきか、
- どのような選択肢があるか
を判断するのが二次的評価です。
過去の経験、使える資源、自身の性格に基づいて、いつ、どこで、どのようにすれば最も良い結果が得られるのかを考えて方針を立てていきます。この方針に基づいて選択されたコーピングを実行します。
一次的評価で「ストレスフル」の要因が「脅威」であると認識されても、二次的評価によって対処可能だと認識すると心理的ストレスの程度は低減されます。このように、これら2つの評価は、相互に影響し合っており、時間的な前後関係や重要度が異なっているものではありません。
ストレスコーピング
ストレスコーピングには、原因となるストレッサーを解決しようとする「問題焦点型」コーピングと自身のストレス反応を低減させようとする「情動焦点型」コーピングの2つに分けることができます。
問題焦点型
ストレッサー自体の解消を目指すもので、ストレス反応の低減に有効 解消できない
ストレッサーに対して働きかける場合は、疲弊してしまう恐れもある
情動焦点型
ストレッサーに直面した結果として生じる否定的な感情を解消する
根本となるストレッサーの解消には至っていないので、その効果はあくまで一時的
コーピングは、いわゆるどんなストレスにも効果を発揮するものではありません。大事なことは、自分にあったコーピングを1つでも多く知り、コーピングのレパートリーを増やすことです。ストレス状況に応じてコーピングを使い分けたり組み合わせたりして、ストレスを未然に防いだり低減させたりすることが大事になります。
この記事を書いた専門家
- ◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第38621号
キャリアコンサルタント 登録番号 17063746
精神保健福祉士 登録番号 第76892号
社会福祉士 登録番号 第210281号
介護福祉士 登録番号 第44160号
◆所属学会:
日本産業ストレス学会
京都府臨床心理士会会員
◆活動状況:
市役所にて精神保健福祉相談員として自殺予防、相談業務に従事し、その後、総合病院精神科にて心理士として医療臨床に従事している。
現在は、ホリスティックコミュニケーション京都ルーム室長として、ストレスチェックや産業臨床に従事している。最新の投稿
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