ストレス理論の歴史

4.ホームズとレイの「社会的再適応評価尺度」

今回は、どういったストレス要因が人に強い影響を与えているのか考えていきましょう。

◇ライフイベント法

ストレスの度合いを測る測定法として「ライフイベント法」があります。そのライフイベント法のなかでもっとも代表的なものが、ホームズとレイの社会的再適応評価尺度(S.R.R.S)です。

◇社会的再適応評価尺度

社会的再適応評価尺度は、生活上の重大な出来事(ライフイベント)によって引き起こされた生活様式の変化に再適応するまでの労力が心身の健康状態に影響を及ぼすという考え方に基づいています。米国民の一般的な人々のライフサイクルを中心に過去10年間にわたるライフイベントを調査し、それに基づいて43項目からなる調査票を作成し、1967年に社会的再適応評価尺度を発表しました。この尺度は、「結婚」を基準値「50」として、0~100点の間でそれぞれのストレスの強度を「ライフイベント得点」として示しています。(調査票は割愛しています。)

過去1年間の得点の合計が一定の基準を超えると心身疾患に罹患する可能性が高まることが報告されています。これは、ストレスによる心身疾患が複数の要因から起こるという考えに基づいています。

◇勤労者ストレス調査表

日本では、夏目誠氏らが日本人に合わせた尺度を「勤労者ストレス調査表」として作成しました。参考に次に表を示します。

No.ライフイベント得点
配偶者の死83
会社の倒産74
親族の死73
離婚72
夫婦の別居67
会社を変わる64
自分の病気や怪我62
多忙による心身の過労62
300万円以上の借金61
10仕事にミスがあった61
11転職した61
12単身赴任をした60
13左遷60
14家族の健康や行動の大きな変化59
15会社の立て直し59
16会社が吸収合併する59
17収入の減少58
18人事異動58
19労働条件の大きな変化55
20配置転換54
21同僚との人間関係53
22法律的トラブル52
23友人の死52
24300万円以下の謝金をした51
25上司とのトラブル51
26抜てきに伴う配置転換51
27息子や娘が家を離れる50
28結婚50
29性的問題・障害49
30夫婦げんか48
31家族が増える47
32睡眠習慣の大きな変化47
33同僚とのトラブル47
34引っ越し47
35住宅ローン47
36子供の受験勉強46
37妊娠44
38顧客との人間関係44
39仕事のペース、活動の減少44
40定年退職44
41部下とのトラブル43
42仕事に打ち込む43
43住宅環境の大きな変化42
44課員が減る42
45社会活動の大きな変化42
46職場のOA化42

◇重要なポイント

社会的再適応評価尺度で重要なポイントは、「結婚」や「家族が増える」、「妊娠」のように一般絵的に祝い事のようなものでも、ライフイベントが大きいとストレスが高くなることです。毎日が楽しく、愛情あふれた生活を送っていたとしても、ライフイベントが大きいと、本人も気づかないうちにストレスを溜めやすくなっているということです。

次に重要なポイントは、複数のライフイベントが同時に発生した時のストレスの大きさです。たとえば、「会社が倒産」(74)し、「転職」(61)を余儀なくされ、「収入が減少」(58)し、新しい仕事を覚えるために「多忙による心身の過労」(62)になった場合は、合計得点が(255)となり、「配偶者の死」(83)の3倍以上のストレスの強度になってきます。また、一般的に祝い事である「結婚」(50)をし新築の家に「引っ越し」(47)て「住宅環境が大きく変化」(42)し「住宅ローン」(47)を抱えた場合は、合計点が(186)で「配偶者の死」(83)の2倍以上のストレスの強度になってきます。

このように自分では避けがたいライフイベントが重なると、自分が感じる以上にストレスは蓄積されるものです。適度に休養をとったり、気分転換をするなどして、ストレス解消が必要となります。

◇あなたのストレスの度合いは

もちろんこれらの示した得点はあくまでも平均値で、実際は人によって感じるストレスの度合いは異なってきます。ちなみにこの尺度を通じて、ご自身のこの1年間自分がどんなイベントを体験したのかを振り返り得点を合計してみてはいかがでしょうか。ご自身のストレスへの新たな気づきにつながれば幸いです。

ホームズとレイの「社会的再適応評価尺度」

参照図書

1.中野義明・他(編),「心理学辞典」、有斐閣、1999.1.25

2.斎藤瑞希・菅原正和,ストレスとストレスコーピングの実効性と志向性(1),岩手大学教育学部付属教育実践総合センター研究紀要,6,p231-243,2007

3.永岑光恵,「はじめてのストレス心理学」,岩崎学術出版社,2022.9.15

弊社ではメンタルヘルスに関するさまざまなご相談を承っております。

この記事を書いた専門家

西島雅之
西島雅之㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第38621号
キャリアコンサルタント 登録番号 17063746
精神保健福祉士 登録番号 第76892号
社会福祉士 登録番号 第210281号
介護福祉士 登録番号 第44160号

◆所属学会:
日本産業ストレス学会
京都府臨床心理士会会員

◆活動状況:
市役所にて精神保健福祉相談員として自殺予防、相談業務に従事し、その後、総合病院精神科にて心理士として医療臨床に従事している。
現在は、ホリスティックコミュニケーション京都ルーム室長として、ストレスチェックや産業臨床に従事している。