ディスカウントしていることに気づく ~ ディスカウントフリー

私たちは成長するプロセスで、多くの価値観を身につけます。TA心理学ではそれを準拠枠(Frame of Reference)と言うことがあります。準拠枠は、養育者から与えられた価値観を徐々に強化されるような環境で、成立していくことが多いと言われます。その中で、大切にしすぎる準拠枠を「誇張」大切でないと思う準拠枠を「ディスカウント(値引き)」と言います。

お金について考えることをディスカウントしていた

例えば、お金に関する準拠枠で筆者のディスカウントを説明します。
筆者は家が田舎の小さな寺で、両親は教育者でした。そのためか、「お金について固執するのは下品なこと」という価値観を小さい頃から言われてきた気がします。そして、小さい頃に好きだったおとぎ話は、「わらしべ長者」とか「花咲かじいさん」など、正直に人のためになることをしながら一生懸命生きていたら自然とお金は入ってくるという価値観を強化するものが多かったように思います。また、日本の学校はお金に関する教育をほとんどしませんでした(昭和後期)ので、お金についての準拠枠は小さい頃から同じ方向にどんどん強化されていました。

つまり、お金について考えることをディスカウントしていたのです。このディスカウントは、筆者が会社を始めてからとても困る状態を生じさせました。経営のためにお金をどう調達するかを考えなくてはいけないのに、お金のことを考えるのは下品だと、自分の中の準拠枠が言います。そして、正直に人のために働いていれば自然とお金は入ってくるはず、と考えてしまい、お金のことを考えずにいるうちに経営難に陥りました。一時、借金は数千万円まで膨れ上がりました。

その後、自分でお金についてディスカウントするのを止めるよう訓練をし、お金のことを過不足なく考えることができるようになってなんとか黒字になるように会社を立て直しました。

パワハラをしてしまう時のディスカウントと誇張

さて、パワハラをしてしまう時、何を「ディスカウント」し、何を「誇張」しているのでしょうか。まずは、相手の人格を尊重することをディスカウントし、仕事ができることを「誇張」してしまっているのだろうと思います。

相手の人格を尊重することをディスカウントすると、仕事を失敗したり、うまく仕事ができない人間は、人として尊重する必要はないと思ってしまうのです。それは、会社という一つの目的を持って動いている組織においては起こりやすいことだと思います。しかし、人間はその存在そのものが尊重されるべきなのです。仕事ができる/できない、失敗が多い/少ないという行動上の課題の多さで、人として尊重されなくなるというのは、ディスカウントが発生していると考えることができます。

また、厳しい言動や行動で相手がどんな思いをするかをディスカウントし、「正しい」自分を「誇張」しているとも言えますね。

自分は「正しい」ことを言っているので、間違っている相手がそのことを真摯に受け止めることが当然と思ってしまうのです。そして「正しい」行動・言動をしない人には何をしてもよいというスタンスをもってしまうわけです。

そういう科学の知(前章参照)に染まっていると、一人一人が異なった考えを持っていたり、自分のスタンスを持っているという部分はディスカウントされがちです。コロナの頃のマスクの着用もそうでしたね。強制ではなかったはずですが、マスクをしない人を糾弾するような行為がどこかの地方議会でも発生していました。都会の人間が田舎に帰省すると嫌がらせを受けたりもしましたね。

仕事をする上で、相手が自分と同じ考え・スタンスを持っていて当然という「誇張」は、これも一つの目的をもって運営されている組織では起こりがちです。そうすると相手の考えはほとんど聞かず、こうするのが当然と思っている行動を押し付けたくなります。

ディスカウントをしないという覚悟をするとしたら、まずは、人として相手の人格を尊重するというスタンスが必要です。仕事ができる/できないにかかわらず、スタッフはみんな人間として貴重な存在なのだと思うことが大切です。

そして、行動レベルでそれを伝えるためには、自分の考えを一方的に押し付けるのではなく、相手の考えも聞いて、折り合い点をみつけるとか、こちらを理解してもらうための話し合いをすることが重要ですね。

弊社ではメンタルヘルスに関するさまざまなご相談を承っております。

この記事を書いた専門家

豊田 直子
豊田 直子㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
臨床心理士、CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー)
第1種衛生管理者、国際TA協会認定CTA(Certified Transactional Analyst)

◆所属学会等:日本産業衛生学会、日本産業ストレス学会、日本産業カウンセリング学会、日本交流分析学会、国際TA協会

◆得意分野:
働く人への短期療法的カウンセリング、TAカウンセリング
ラインケア・セルフケア研修、コミュニケーション研修、人事部門・健康管理部門へのメンタルヘルスコンサルティング