パワハラの背景にある価値観 ①儒教的価値観
今回は、なぜパワハラをしてしまうのかの心理的背景の一つとして「儒教的価値観」をとりあげたいと思います。
儒教とか論語という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。中国の諸子百家の一人である孔子という人が始めた実践道徳が、儒教とか儒学というものだそうです。忠(君主関係)や孝(親子関係)をはじめとして、日本でも比較的に馴染みがあるのは基本的な道徳とされる「仁・義・礼・智・信」の5か条ではないでしょうか。
これらをザクっとまとめると、要するに理想の社会を実現するためにみんなが「有徳者」になる、もっと簡単に言えば「立派な人間になる」ことが大切、というのが儒教の教えだと思います。
その教えを会社に当てはめてみると・・・
- 仕事を一生懸命するのは当たり前
- 組織のために私(プライベート)を抑制するのは当たり前 滅私奉公
- 出世を目指す人は立派だし、出世した人は立派な人
- より仕事を頑張る人が立派
- 自分のことより他人のことを思いやる人の方が立派
- ルールを守り、ルールに反した人を追及することが正しいこと
- 我慢をしない人間は立派でない
- 人に迷惑をかけてはいけない
- 失敗をした時は自分の至らなさを徹底的に振り返らなければならない
等々、思いつくままに羅列しましたが、みなさんの心の中にもあるのではないでしょうか。
そりゃそうだろう、そうじゃないスタンスなんてありえない、と思う方はかなり儒教的価値観が強いと思います。
管理職は上位に行けば行くほど、この儒教的道徳心が強い人が多いように思います。悪徳業者は別にして(笑)
そうすると、これらの価値観に沿わない人が許せなくなります。
- 仕事よりプライベートを優先するなんてありえない!
- ルールを守らない人は人間として最低!
- 一生懸命働かない人は人間としての徳にかけているから指導しなければならない!
という感じですね。
そして、自分は道徳的に生きているので自分の生き方と異なる生き方は間違っているし、理解できないし、許せないので、攻撃したり、そういう人を「矯正」したくなるんですね。これがパワハラの原因の大きな一つのように思います。
ここで儒教のアンチテーゼ(否定的主張)として出てきた道教(老荘思想)を紹介しておきたいと思います。道教も中国の諸子百家の一人である老子が主張した思想ですが、日本へ直接来ずに、欧米で評価され、「タオイズム」という名前になって日本には欧米経由で入ってきました。「タオ」とは「道」ということです。
老荘思想は儒教の中で言われている世俗的な価値を否定します。人為的な制度を強化することで人はますます自然な存在でなくなり、混乱と堕落しか生まないと言います。ただ、自分が信じる「タオ(道)」を求め続けることは大切で、ありのままに生きることがタオを求め続けることになる、と言います。
タオイズムの有名な格言に
「弟子に準備ができたときに師匠が現れる」
というのがあります。うまくいかない時は、その人に準備ができていない状態なのだという理解です。
これは、第3の心理学と言われる人間性心理学と方向性が同じだと思います。カール・ロジャースは、人間はジャガイモと同じで、「条件さえ整えば、自らの<いのち>をより良く生きる方向に定められた存在である」と言っています。
より良く生きるモティベーションと必要な準備が整えば、人は前に進むということです。
そういう意味では、タオイズムは儒教のアンチテーゼではなく、儒教を補完していると言う見方もできるのではないでしょうか。儒教的思想はうまく機能すれば組織も個人も幸せになります。だから、儒教的思想もタオのひとつである、という考え方がいいのではないでしょうか。
管理職は自分の儒教的思想を否定するのではなく、一つの考え方であるという位置づけで、部下のタオも理解しようとしてみると、意外と同じ方向に歩くこともできるのかもしれません。
参考文献:
『シンプルに生きる 老子』監修 野村茂夫 リベラル社
『カール・ロジャース入門 自分が“自分”になるということ』諸富祥彦著 コスモスライブラリー
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この記事を書いた専門家
- ◆資格:
臨床心理士、CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー)
第1種衛生管理者、国際TA協会認定CTA(Certified Transactional Analyst)
◆所属学会等:日本産業衛生学会、日本産業ストレス学会、日本産業カウンセリング学会、日本交流分析学会、国際TA協会
◆得意分野:
働く人への短期療法的カウンセリング、TAカウンセリング
ラインケア・セルフケア研修、コミュニケーション研修、人事部門・健康管理部門へのメンタルヘルスコンサルティング
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