パーソナリティ障害とは
パーソナリティ障害というと、性格に障害があるのかと考える方がいるかもしれませんが、パーソナリティ=性格というわけではありません。
物事のとらえ方、考え方、反応の仕方、他人とのかかわり方など、人それぞれに特有のものがあり、それらを総合してパーソナリティと呼びます。
パーソナリティの歪み、偏りが、その人が属している文化から期待される範囲内にある限りは、「その人らしさ」とか「個性」と呼ばれますが、歪みが、文化の許容範囲を超えて柔軟性がなく極端になると、大多数の人とは違う反応や行動をすることで、本人が苦痛を感じたり、周りが困ってしまう状態になります。
歪みのない完全な成長というものはあり得ませんから、さまざまな程度の歪みをともなった成長が一般的で、たいていの場合、それぞれのパーソナリティで周りの人とそれなりにうまくやっていくことができますが、人によってはそうはいかないことがあります。それがパーソナリティ障害ということになります。
パーソナリティ障害の特徴
一般にパーソナリティ障害の人は、行動障害をもって事例化することが多くあります。
- 暴力を振るって他を傷めたり、器物破損をしたり、違法行為をして警察沙汰になる。
- 手首自傷や過量服薬などの自傷・自殺行為に走っては騒動を起こす。
- 違法薬物の使用やアルコールの乱用、買い物やパチンコにはまるなど、依存症でくくられる衝動行為に陥って、生活の破綻をきたす。
- 社会一般で期待される対人関係を拒否して引きこもる。
- 職場その他でトラブルメーカーになったり、不倫など男女問題が絶えないために人の信用を失ったり、周囲を戸惑わせ、困らせる。
などです。
その一方で、内面的には、傷ついて落ち込みやすく、役立たずの感(劣等感、無力感)、疎外感、自責感、空虚感などの心性に支配されています。
社会にあっても、家庭にあっても、困った人、性質の悪い人といったとらえ方がなされ、その見方が本人を腐らせ、それがまた周囲を困らせるという負のスパイラルを形成していることが非常に多くあります。
パーソナリティ障害の種類
パーソナリティ障害の種類は、3つのグループと10のタイプに分類されます。
A群:奇妙または風変わりな様子を特徴とするグループ
- 妄想性パーソナリティ障害:他者への疑念や不信から、危害を加えられることや、裏切りを恐れることが特徴
- 統合失調質パーソナリティ障害:非社交的、孤立しがちで、他者への関心が希薄なように見えるのが特徴
- 統合失調型パーソナリティ障害:思考が曖昧で過度に抽象的で脱線する、感情が狭くて適切さを欠き、対人関係で孤立しやすいことが特徴
B群:演技的、感情的、または移り気な様子を特徴とするグループ
- 反社会性パーソナリティ障害:他者の権利を無視、侵害する行動や、 向こう見ずで思慮に欠け、暴力などの攻撃的行動に走るのが特徴
- 境界性パーソナリティ障害:感情や対人関係の不安定さ、衝動をうまく制御することができないことが特徴
- 演技性パーソナリティ障害:他者の注目や関心を集める派手な外見や大げさな行動が特徴
- 自己愛性パーソナリティ障害:周囲の人々を軽視し、周囲の注目と称賛を求め、傲慢、尊大な態度を見せることが特徴
C群:不安や恐れを抱いている様子を特徴とするグループ
- 回避性パーソナリティ障害:周囲からの拒絶や失敗することを恐れ、強い刺激をもたらす状況を避けることが特徴
- 依存性パーソナリティ障害:他者への過度の依存。自らの行動や決断に他者の助言や指示を求めることが特徴
- 強迫性パーソナリティ障害:一定の秩序を保つことへの固執、融通性に欠けること、几帳面、完全主義や細部への過度のこだわりが特徴
パーソナリティ障害の10のタイプは、それぞれ偏り方が異なっているだけでなく、尊大な態度を見せる「自己愛性」と失敗を恐れる「回避性」、他者への不信を持つ「妄想性」と他者への過度の依存を示す「依存性」のように、正反対の偏りを示す場合もあります。一見すると全く別々のものに見えますが、すべてのパーソナリティ障害には、表面的な偏り方の根底に、共通する症状、特性があります。この共通する症状、特性を理解しておくと、複雑に見える、パーソナリティ障害の様々な特徴も理解しやすくなります。
パーソナリティ障害の人に共通する5つの基本症状
一つ目の基本症状は、全か無か、白か黒かと、常に両極端で考える二分思考です。家族や恋人、友人が、思い通りにしてくれている間は、「すごくいい人」「最高の相手」と思っているのに、少しでも思いに反することをされると、「ひどい人」「最悪の人」となってしまいます。
二つ目は、とても傷つきやすいため、他人を心から信じることができず、他人との絆を築きにくいことです。些細な他人の言葉で、ひどく傷つき、攻撃されたと感じたり、落ち込んだり気に病んだりしやすく、安定した信頼関係を維持することができません。
三つ目の基本症状は、劣等感と自信が、不安定に同居しているということです。心の奥底に、自己否定感をかかえていて、それを、その人なりの方法で代償し、かろうじてバランスをとっています。自信ある態度をとったり、強気にふるまっていても、もろい面をかかえています。自分を守るために、相手を支配したり、見下ろしたり、攻撃したりしますが、その防衛が崩れると、抑うつ状態に陥り、自分を責めたりします。
四つ目は、自分と他者の境界があいまいで、自分と相手の立場を混同しやすいことが挙げられます。そのため、自分の気持ちと相手の気持ちを混同し、自分が、相手のことを嫌っていると、相手が自分のことを嫌っているように感じたりします。相手が、父親と年格好が似ていると、それだけで、父親と接しているように感じ、自分の気持ちをぶつけたりします。
五つ目は、自分を大切にする能力、自己愛のバランスが悪いということです。いびつに肥大した自己愛から、不遜に、周囲の人を傷つけたり、貧弱な自己愛しか持てなくて、自分を過度に粗末に扱ったりします。
5つの基本症状の強さや現れ方で、様々なパーソナリティ障害の特徴が現れると考えられます。他人を信じることができず、ひどい人と考える傾向が強いと、他者への不信から社会的に孤立する傾向のあるA群、劣等感と自信が不安定に同居し、自己愛のバランスが悪く、両極端に考える傾向が強いと、感情的に不安定なB群、傷つきやすく、自己否定感が強いと、不安や恐れを抱くC群などです。
職場、仕事上で起こりやすい困りごと
仕事上で起こりやすい困りごとは、主に対人関係に現れます。パーソナリティ障害のある人にとって、自分のパーソナリティに偏りがあることに気づくことは難しいので、自分では普通の考え方やふるまいをしているつもりなのに、なぜか周囲の人と摩擦が起こってしまい、本人は悩み、周囲の人は困惑するということがよく起こります。
A群のパーソナリティ障害は他人と関わることへの関心が薄く、他人への警戒心も高いため、周囲の人と信頼関係を築きにくい傾向にあります。このため「変わった人」と思われがちで、チームワークが苦手です。
B群は演技的、または衝動的、移り気であるなど、感情の起伏が激しく不安定な傾向があります。相手からのネガティブな言動に対して激しく怒りを示してしまい、周囲の人を当惑させることもあります。
自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分は選ばれし者であるという根拠のない自信をもっていて、何でも自分の思うとおりになって当然と思っていますが、根拠のない優越感なので、心の中には、「自信のなさ」を抱えています。その不安を拭い去るため、他人からの称賛を求め、褒めてくれないとすぐに機嫌を損ね、自分より成果を出す人や人気のある人に嫉妬をして、悪口を言いふらし、相手を本気で潰そうとすることがあります。
境界性パーソナリティ障害の人は、見捨てられることへの不安が強いため、男女関わらずひとりの人に依存しやすく、その人を引きとめるために周囲にありもしない噂を流したりすることがあります。見捨てられることを恐れてリストカットや過食がみられることもあります。見捨てられることへの不安から、過剰な頑張りで体調を崩したり、手に負えない状況下でも自分で処理をしようとして、結果的に周囲の人を振り回すこともあります。
演技性パーソナリティ障害は、注目の的でいなければ気が済まず、異性の気を引こうと誘惑したり、人気を獲得するために非常に思わせぶりで、個人的な関係と仕事上の関係との間にある境界線を曖昧にし、職場の枠を超えて関係を深めようとすることがあります。
C群の人は不安や恐怖心が極端に強く、内向的であることが特徴です。目立つことや困難に立ち向かう必要がある状況を避けようとするため、責任を伴う業務や昇進を断ってしまうこともあります。また、自分のルールを守ろうとするあまり、生産性や効率を気にしないことがあります。
依存性パーソナリティ障害は公私のバランスをとることが苦手で、一人になることを恐れ、特定の人に依存し、依存していた相手が離れていくと精神的に不安定になることがあります。他の人の助言なしには日常の物事に判断を下すことができず、本当は嫌だと思うことであっても、大きな労力を払ってこなすことで、承認や支持をもらおうとします。
回避性パーソナリティ障害の人は、困難が現れると、困難を避けることで自分を守ろうとします。新しい仕事に失敗したり、恥ずかしい思いをしたり、相手に迷惑をかけてしまうことに対して強い忌避感を覚えてしまうため、仕事における新たな経験やキャリアを積むことを拒みます。とにかく消極的となり自分から動こうとしなくなり、「指示待ち人間」となりがちです。
強迫性パーソナリティ障害は、ルールや秩序、整然とした状態、完ぺきである必要性などを過度に意識し、自分で決めたルールややり方にこだわり、完ぺきにできないと気が済みません。自分も苦しみますが、自分の基準を相手にも押しつけ、支配的で融通が利かないため、周囲の人も不必要に苦しめることになります。
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この記事を書いた専門家
- ◆資格:
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第1716号
日本催眠医学心理学会認定 認定催眠士第21号
◆所属学会:
日本催眠医学心理学会
奈良県臨床心理士会会員
◆活動状況〈得意分野〉:
国立病院機構やまと精神医療センター心理療法士として35年、医療臨床に従事する。その後、奈良県介護・福祉人材定着支援事業、紀伊半島大水害被災者支援、大和郡山市市民相談など、臨床心理的地域援助活動に携わり、現在は、ホリスティックコミュニケーション奈良カウンセリングルーム室長として、産業臨床に従事している。
◆主な実績:
登校拒否に関する社会医学的研究で医学博士を取得。その他、神経筋肉系心身症や不安神経症の心理学的治療、介護労働者の介護負担、統合失調症の認知などに関する研究に従事し、研究論文を発表している。最新の投稿
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