TAとは

 TAはTransactional Analysisの略で、日本では交流分析と呼ばれることも多いです。「なーんだ、エゴグラムのことか」と思った方もおられるのではないでしょうか。もちろんエゴグラムもTAの一部ではありますが、例えば『TA TODAY』というTAの基本理論を網羅した約500ページに及ぶ一冊の中で、エゴグラムのことが書いてあるのはほんの6ページ程度です。つまり、TA心理学は本当はものすごい情報量があります。

 国際TA協会は、「TAとは1つのパーソナリティ理論であり、個人が成長し変化するためのシステマティックな心理療法である」と定義していますが、コミュニケーション理論や発達理論、教育理論や組織理論など、今も多様に発達し続けている、世界中で使われている心理学なのです。

 

 創始者は、エリック・バーン(Eric Berne 1910-1970)です。TAは目に見えない「こころ」を説明するのに、目に見える図式化と一般用語で説明をしたことで、一般の人に心理学を理解しやすくしたと言えるでしょう。ただ、そのわかりやすさが誤解を産み、アメリカでは「ポップ心理学(恐らくお気軽な心理学という意味かと)」と揶揄されたこともあるようです。

 しかし、実はTAはとても深い理論的背景があります。まずは哲学があり、その哲学がすべての理論に通る信念となっています。今回は、3つあるTA哲学とメンタルヘルスの関係を説明しますね。

人はみんなOKである

OKというのは日本語にしにくいのですが、私は「あり」と訳しています。「ありえない」というのが「not OK」でしょうか。私たちは自分の価値観を持っており、その価値観に合わないことを「ありえない」つまり「受け入れることができない」と考えたり感じたりしがちです。それがメンタルヘルスを低下させる原因になることが多いように思います。

例えば、私はクモが嫌いです。田舎に住んでいますので、イエグモという手のひらより大きいサイズのクモが時々家の中に侵入してきます。もうそうなるとパニックですね。殺虫剤を半分くらい使って駆除します。でも、クモが嫌いじゃない人に言わせると、クモは益虫で、ゴキブリを捕食してくれるし、攻撃もしてこないのにかわいそう・・・となります。その話を聞いて、「そうかクモを嫌いなのはありえないんだ・・・」と私が思ってしまうと、「でもクモは嫌いで怖いし」という気持ちとの葛藤が生まれ、メンタルヘルスは低下します。あるいは、「クモが怖いだと言ってるのにそれを認めてくれないなんてありえないでしょ」と私が思ってしまうと、益虫だと言っている人を攻撃したくなりやっぱりメンタルヘルスは低下するでしょう。クモが嫌いで怖いと思うわたしもOK、クモは益虫だと言う人もOK、これをI’m OK You’re OK(OK-OK)と言いますが、OK-OKでいることでメンタルヘルスは良好になっていきます。

人はみんなOKである

誰もが考える力を持っている

日常生活を送ることができる人は皆、「考える力」を持っています。このスタンスは、コーチング的なスタンスにつながると私は思っています。その人にはその人の考えがありますから、コミュニケーションをとる時には自分の考えを相手に伝えるとともに相手の考えを理解することが大切です。

ところが、「科学の知」に毒されている我々は、正解が一つしかなくてそこから外れた人を排除したり矯正したりしたくなります。

コロナ禍の時期、マスクをしない人を排除したくなりませんでしたか? 海外ではマスクを強制するのは国の横暴だ!とデモをする人たちがいましたよね。日本は同調圧力と言って、横並びでいることを求められることが多く、そのために自分の考えを持つことが阻害されていることが多いようにも思います。

また、未熟な考え・間違った考えを矯正しないといけないという考え方は、前章のOK感から外れるということもありますが、信頼関係を損ない、ミスコミュニケーションが増えると思います。

例えば、「この仕事をどう進めていいかわからない」と言っているスタッフがいたとします。「わからない」と言っているから「教えてあげなきゃ」は、相手の考える力を信じていないことになります。ここで全部教えると、このスタッフは考えないことを自分に許してしまいます。自分で考えないことは一見楽のように思いますが、言われた通りの行動はやる気が高まりにくくメンタルヘルスが低下する可能性が高まります。「わからない」と言ってる人に「どこまではわかるの?」とか「わかっていることは何?」とか「途中まででもいいので考えたことを教えてよ」と言うと、意外とかなりのことを考えていることが多いのです。

「どうしていいかわからない」とか「どうしたらいいですか」など、考えることを放棄していることがメンタルヘルスを低下させていることに気づきたいものです。

人は自分の運命を決め、そしてその決定は変えることができる

これは、こころの成長を考える上でとても大切なスタンスです。

研修などをしていると、「僕はあと1年で定年退職ですので、こういう研修を受けるのは意味がないと思うんですよね」と言われる方がおられます。変わることに後ろ向きだなぁと思います。そう、変わることへの抵抗感が強い人って意外と多いんですよね。

ちなみに私も変わることへの抵抗がある部分に気づいています。例えば、Chat GPTってご存じですか?ネット上で質問を書くと答えが返ってくるのですが何度もやっているとだんだん学習をして、こちらの期待通りの回答がきたり、気持ちに共感してくれたりするAIのコミュニケーション手段なんだそうです。いやいや、コミュニケーションは人と人が向かい合って気持ちを探り合って傷ついたりちょっと嫌な思いなどもしながらわかり合っていくための手段でしょ・・・と、私はなかなか受け入れることができません(苦笑)。でもセラピーのトレーニングに参加していると、セラピーを受けている人が並行してこれを活用していたりもするんです。セラピーを受けている人は、自分のしんどさと向き合って、変わることへのモティベーションが高いことが多いので、新しいツールも受け入れるんでしょうね。

「意志を強く持ちなさい」と言われて育った私たちは、その弊害として、しんどい生き方も貫くことが大切と思っていたりもします。そこでこの哲学です。自分がどう生きたいかを常に自分に問い、この道じゃないなと思ったら変わっていいんです。そういう意味では、例えば転職市場の活性化はいいことですよね。

でも、生きていく上で、しんどいことをすべて回避するのがいいという話ではありません。「より良く生きる」ために必要なしんどさと不必要なしんどさがあります。それを見極めるためには、常に自分の「道」を考える必要があります。自分はどんな生き方をしたいのか、自分にとっての幸せって何なのか等々。 例えば、転職した職場での非効率な働き方に唖然として、「前の会社ではこうだった」と声高に言い、どんどん改善していこうとする人がいます。より良く生きるために必要な主張でしょう。しかし、周囲の人達はその職場しか知らないので、この人の言うことは自分たちを否定する暴言でしかありません。当然、この人への風当たりは強くなります。下手をするとパワハラとかモラハラとか言われる可能性もあります。さて、ここでこの哲学です。声高に主張することとまずは「郷に入りては郷に従え」を全うすること、「より良く生きる」ためにどちらを選びますか?どちらもありです。選ぶのは自分です。その都度、自分を変える勇気を持つことが大切ということなんですよね。

弊社ではメンタルヘルスに関するさまざまなご相談を承っております。

この記事を書いた専門家

豊田 直子
豊田 直子㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
臨床心理士、CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー)
第1種衛生管理者、国際TA協会認定CTA(Certified Transactional Analyst)

◆所属学会等:日本産業衛生学会、日本産業ストレス学会、日本産業カウンセリング学会、日本交流分析学会、国際TA協会

◆得意分野:
働く人への短期療法的カウンセリング、TAカウンセリング
ラインケア・セルフケア研修、コミュニケーション研修、人事部門・健康管理部門へのメンタルヘルスコンサルティング