自我状態についてのメンタルヘルスとの関係

TA心理学の2大理論と呼ばれるのが自我状態人生脚本になります。ここではまず、自我状態についてのメンタルヘルスとの関係をみたいと思います。

エゴグラムはTA理論の中で最も市民権を得ている理論ですね。ただ、第1章に書いたようにわかりやすい一般用語で説明をしたがために、誤解も生じやすいようです。
昔大手メーカーに勤めていたころにコンサルティングの研修講師が出してきた資料の中で、例えば「CPの人は黒い服を着ている」等と書いてあったことには唖然としたことがあります。何もかも間違っているのでここまで違うと笑うしかないというか、むしろTA心理学を元にこのコンサルタントが独自の理論を構築したのかと思ったものです。

さて、自我状態の定義は、

「一貫性のある行動パターンと直接関連している、感情と経験の一貫性あるパターン」

です。うーん、わかったような、わからないような・・・TAを真剣に学び始めた頃、この定義がしっくりこなくてかなりもやもやしました。

なので、もう少しわかりやすい言葉に変えてみると、

「人は、世の中と関わる上で3つの存在形式があり、その3つともが行動・思考・感情を持っている。この3つの存在形式を自我状態と言う。」

あー、さらに混乱しましたか? ではもう少し詳しくいきましょう。 3つの存在形式は団子3兄弟のように(古いかな?)縦に3つの円を重ねます。

この3つの円は大きさが同じであること、離れていないことなどが決まっています。エネルギーが3つの円を自由に流れることや、どの自我状態も重要であるという意味だと思います。

さて、この3つの構造を各々簡単に説明すると、

P:Parent

親の自我状態…親や親的な役割の人をまねた思考・感情・行動

⇒私は車の運転をしている時、前を走る車の運転が下手だと、追い越す時に顔を覗き込み、「だから女の運転はダメなんだ」とつぶやきながらイライラします。自分も女性なのにです! これは私の父が持っていた考えと行動、そして感情なんですね。そこに理由とか正しさとかはありません。真似ているわけですから自動的にそうなっています。そしてそのスタンスがメンタルヘルスを低下させることがあります。

子どもの頃、父とスキーに行くとリフトに乗りながら滑っている人たちを見て、「あの人(の滑り)は60点」「あの人は10点だな、全然だめだよ」なんて父がよく点数をつけました。小さい私は「じゃああの人は50点かな?」なんて一緒に点数をつけたりして人を評価する方法を真似ました。このスタンスは、100点ではない人間はダメなんだという価値観を産み、他者を責めたり自分をおとしめたりして、メンタルヘルスが低下しやすかった時期がありました。

親的役割をした人の思考・感情・行動は、自分の心の中で規範となることがよくあり、それが機嫌よく生きるために役立つことも多いのですが、呪縛となって自分を追い込むこともあるんですね。

A:Adult

「今・ここで」の直接の反応としての思考・感情・行動

⇒例えば上司から「なんでこんなやり方したの?」と聞かれたとします。Adultの自我状態を使っていれば、「なんで・・・?」と聞かれたわけですから、「理由は・・・」と応えることになります。

しかし、例えば返事として「どこがダメだったでしょうか?」と応えるときは、「こんなやりかたしたらダメでしょ」と言われているようにとっている可能性がありますね。
言葉の裏側を考えて(忖度して)いるわけで、その時はAdultではありません。私たちはAdultの自我状態を使うことができているとメンタルヘルスが良好でいられるのです。

C:Child

子ども時代の反復としての思考・感情・行動

⇒以前、大企業の管理職に研修をしたとき、「講師の関西弁が不愉快だった」という感想を言われたことがあります。要するにダメ出しをくらったわけですね。
前述のAdultの自我状態でいれば、私は関西弁しかしゃべれませんし、それがダメだとは思っていないので、「あらあら、関西弁苦手なんだ、気の毒に」で済むのですが、この時はなぜだかCの自我状態に入ってしまい、「どうしよう、叱られた。共通語イントネーションを身につけなくちゃ。いやでもそんなの無理だし・・・」と悶々と悩みました。
相手の気持ちを鵜呑みにして、変わらないと抹殺される(ちょっとおおげさな言葉ですがニュアンス的にはこんな感じです)と思っちゃったんですね。
私は「おびえる子どものこころ」と名付けていますが、子どもの頃、つたない思考回路で一生懸命考えて生き残るために身につけた戦略を、いつまでも(無意識に)使い続けることで、対人関係がうまくいかなくなったり、仕事がうまく進まなくなったり、自分を大切にできなくなったりするわけです。

TA理論の中には、再決断療法とかセルフリペアレンティングなどのセラピーがありますが、これらは、無意識にやり続けているChildの自我状態での思考・行動・感情をAdultに変えていく取り組みになります。

弊社ではメンタルヘルスに関するさまざまなご相談を承っております。

この記事を書いた専門家

豊田 直子
豊田 直子㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
臨床心理士、CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー)
第1種衛生管理者、国際TA協会認定CTA(Certified Transactional Analyst)

◆所属学会等:日本産業衛生学会、日本産業ストレス学会、日本産業カウンセリング学会、日本交流分析学会、国際TA協会

◆得意分野:
働く人への短期療法的カウンセリング、TAカウンセリング
ラインケア・セルフケア研修、コミュニケーション研修、人事部門・健康管理部門へのメンタルヘルスコンサルティング