学童期と勤勉性の獲得

ライフサイクル理論では学童期を6才~12才くらいの時期と設定しており、「勤勉性」を獲得することを発達課題としています。

勤勉性とは何か?

勤勉性という言葉からは黙々と机に向かって勉強するようなイメージがありますが、ライフサイクル理論において勤勉性とは、社会的に期待される活動を自発的に習慣的に営むことと言われています。

学童期における「社会的に期待される活動」

実際の学童期において「社会的に期待される活動」というと、日本社会においては、

  • 同年齢の集団での活動
  • 関心のあることに没頭すること
  • 遊び

などが挙げられます。

そして勤勉性は、他者との協働が求められる社会や組織の中で適応していくうえでとても大切です。

勤勉性の獲得と企業・組織

企業や組織に所属した時点を「誕生」と捉え、そのコミュニティの一員として、

  • 基本的信頼(0才~1才半)
  • 自律性(1才半~3才)
  • 自発性(自主性)(4才~6才)

といった発達課題を達成した次の段階として、勤勉性を獲得するために企業や組織における「社会的に期待される活動」とはどのようなことだと思われるでしょうか。

私は、自分に与えられた業務・役割・ミッションであると考えます。

自発的な勤勉性の重要性

そしてこれらのことを単発ではなく習慣的に、上司や先輩から言われたからというのではなく、自分ごととして自発的に、一所懸命に行うことで組織人としての「勤勉性」が獲得されていくのではないでしょうか。

勤勉性と仲間との関係

また勤勉性の獲得において重要なことは、仲間と道具や知識や体験の世界を共有しなければならないということです。

少々漠然としておりますが、勤勉性を獲得するためには、

  • 友達(同僚・仲間)から何かを学ぶこと(教えてもらうこと)
  • 友達(同僚・仲間)に何かを教える

ことが必要と言われています。

相手から学び、こちらからも相手に教えるといった、共感的で相互依存的な関係を体験することで、同僚や仲間に対しての敬意や、自分自身に対しての自信や誇りを持つことができると考えられています。

勤勉性がうまく獲得できない場合

そして、勤勉性の獲得がうまくいかない場合は『劣等感』を持つと考えられています。

劣等感には、嫉妬・羨望・敵意といった感情も含まれます。また劣等感は、優越感と表裏一体のものであるという考え方もあります。

劣等感と優越感の関係

表裏一体とはどういうことかと言いますと、劣等感のない人は他の人に優越感を持ちませんし、その反対に優越感のない人は、何が起きても他の人に劣等感を感じることはないということです。

優越感も劣等感も持たず、他の人と関わり合いを持ち、相互依存的な関係を作っていくことで勤勉性は獲得されていきますが、劣等感や優越感に固執することで、孤立を深めていくことがあります。

事例:営業職Bさんのケース

営業職のBさんは入社して5年を迎えます。仕事に対しても前向きで、時間があると本を読みながら自己成長の努力を怠りませんが、上司や同僚との関係においては、あまり自分から関わりを持とうとしません。

仕事が終わった後、同僚から食事に誘われても断ることがほとんどでした。また仕事の面でも一人で黙々と進め、残業をしていることもしばしばあります。

同僚が「何か手伝おうか?」と声を掛けても、「大丈夫ですから」と断ることが当たり前になっており、次第に周囲の人から声を掛けられなくなっていきました。

孤立の原因

Bさんは営業成績に対して強い思いがあり、同僚が自身の営業成績に迫られることや、追い抜かされると、ひどく落ち込み、イライラとした気持ちを隠しきれなくなる様子が見られるので、同僚たちもどのように声を掛ければよいのか分からず、Bさんが自分の気持ちが自然と落ち着くのを見守るだけでした。

Bさんは、一人で学び、スキルを高めていくという点では「勤勉」であるかもしれませんが、周囲と相互依存的な関係つまり、誰かに頼ることや頼られることがなく、孤立をしていったと考えられます。

またその背景には、「他の社員より自分はできる」という優越感に起因する競争心や、「他の社員に成績で抜かされてはいけない」という劣等感に由来する不安があったのではないでしょうか。

組織の中での勤勉性の育み方

組織の中では、

  • 業務のスキルに関する教育プログラムが構築されている
  • スキルは業務の中で高めていくものであるという考え方
  • 業種が同僚とのコミュニケーションを必要としない(一人での業務)

など、色々なスタンスがあるとは思いますが、仲間(同期や同僚)同士の関係の中で、日々の業務に取り組み、その中で学び合い・教え合うという相互依存的な関係が育つ中で勤勉性を獲得し、機嫌よくお仕事に向き合うことができるといいですね。

次回のテーマ

次回は青年期における発達課題「アイデンティティの獲得」に焦点を当て、職業的アイデンティティについて述べていきたいと思います。

勤勉性とは、社会的に期待される活動を自発的に習慣的に営むこと

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この記事を書いた専門家

宮前諒平
宮前諒平㈱ホリスティックコミュニケーション
◆資格:
臨床心理士/公認心理師
日本臨床心理士資格認定協会認定 臨床心理士第18723号
(石川県臨床心理士会会員)

◆所属学会:
日本心理臨床学会
日本児童青年精神医学会
日本学生相談学会

◆活動状況〈得意分野〉:
臨床心理資格取得後、奈良県内の中学校や不登校の児童生徒の通室教室で学校臨床に携わる。
石川県に活動の拠点を移してからは学校臨床に加え、病院臨床(遊戯療法を中心としたカウンセリング・知能/発達検査・うつ病/統合失調症の症状査定)や産業臨床(求職者の方とのカウンセリング)や大学生の学生相談業務に従事する。
株式会社ホリスティックコミュニケーションでは、メンタルヘルスに関する情報提供を行う講師としての活動やストレスチェックに関する業務を担当している。